救急搬送された親の持病や飲んでいる薬を、あなたはその場でどこまで正確に答えられるだろうか。かかりつけ医のカルテは別の病院にあり、お薬手帳も手元にない——そんな場面は、日本の医療現場で今も珍しくない。
厚生労働省は2020年頃、電子カルテの仕様を全国一律に統一・画一化することは、技術が10年単位で変化する以上非現実的だと判断し、代わりに医療機関同士が情報を交換するための「交換規格」として、国際標準になりつつあるHL7 FHIR(Release 4)を採用する方針をとった。この路線は2022年の「医療DX令和ビジョン2030」と骨太方針、2023年6月の工程表を経て「2030年までに医療機関のほぼ全てで電子カルテを普及させる」という政府目標に発展し、中小病院・診療所向けにはFHIR R4に準拠した「標準型電子カルテ」をクラウドベースで国が開発する方針も進められてきた。
2026年9月9日に厚生労働省が公表した「電子カルテ普及計画」(概要2ページ・本体56ページ)は、このFHIR R4準拠路線の延長線上にある最新の数値目標である。2028年度までに電子カルテ未導入の200床以上の病院(療養病床中心の病院等を除く)で普及率100%を目指し、2030年までに医療機関全体でおおむね100%の普及を実現するとした。2026年6月の社会保険診療報酬支払基金の調査では、診療所72.6%、20〜199床の病院73.5%、200〜399床86.0%、400床以上94.4%と、規模の小さい医療機関ほど導入が遅れている実態も明らかになっている。
電子カルテが普及し、FHIR R4という共通の言葉で医療機関同士が情報を交換できるようになれば、転院や救急搬送の際の重複検査や薬の飲み合わせ確認の手間が減り、患者本人が説明しきれない情報を医療者側で補うことができる。複数の医療機関を行き来する場面が増える高齢の親を持つ家族にとって、情報連携の有無は医療の質と家族の負担の両方に直結する問題だ。
■ 日本PMIパートナーズの視点
病院ICTの高度化は、在宅医療・訪問看護と病院との連携を滑らかにする基盤でもある。当社は投資先の医療・介護事業者において、FHIR R4に対応した電子カルテや情報連携システムの導入・活用を支援し、患者・家族の負担軽減と現場の業務効率化を同時に進めてきた。長期にわたり一貫した標準化路線が続いていることは、この分野への投資の予見可能性を高めると考える。
