我々日本PMIパートナーズは国内有数のセクター特化型のヘルスケア専門バイアウトファンドで、医師資格を有するメンバーを含む専門チームが投資先企業を支援している。
今回のコラムでは、各国の医師のキャリアが医療・ヘルスケア提供体制にどう影響するのかを取り上げる。
医師という職業がどのように選ばれ、どの領域へ進むかは、国によって大きく異なる。
そしてその違いは単なる価値観の差ではなく、どの診療科や地域で人手不足が生じやすいかという、医療提供体制そのものに直結している。
例えば日本では、医学部医学科は依然として人気の進路の一つである。入試倍率は国公立では概ね2〜5倍台、私立では30倍近くに達する場合もあり、医師を志す母集団は依然として厚い。一方で、地域や診療科ごとの偏在は長年の課題となっている。
その一例として近年注目されているのが、初期臨床研修修了後に直接美容医療へ進む、いわゆる「直美」である。厚生労働省の検討会においても、質の問題に加え、必要領域の人材確保の観点から懸念が示されている。
この動きは人口の都市集中の延長線上に位置づけられる。地方では医師不足が続く一方、都市部、特に東京では勤務希望者が集まりやすく、病院勤務の競争は相対的に激化している。地方では東京より高い条件が提示されることもあるが、若手医師の進路は報酬のみで決定されるわけではない。専門的な症例を学びたい、都市部でキャリアを築きたい、あるいは東京で生活したいといった志向が進路選択に大きく影響している。
こうした都市集中の構造に、都心部に集積する自由診療ニーズと、美容医療における相対的に高い報酬および柔軟な働き方が重なることで、「直美」という現象が生じやすくなっていると考えられる。
では、他国の状況はどうか。
例えばシンガポールでは、初期の配属診療科およびその後の異動先は制度的に決定され、そのうえで希望する専門領域へ進めるかが別途判断される仕組みとなっている。
中国においては、どの診療科に進むか以前に、人材の厚みそのものが課題となりやすい。高度専門職であるにもかかわらず、医師という職業が日本のようにトップ層の自然な進路とは言い切れない。実際に、中国の学生を対象に職業志向を分析した研究では、医療職志望は科学者やエンジニアを下回っている。この背景として、中国においては医師の職業選択において報酬が重要な要因の一つとされている一方、報酬水準やその満足度が十分でないことが指摘されており、これが医療人材の確保や職業選択に影響を与えている可能性がある。
医師人材の流れは、その国の制度設計を反映するものである。
各国で異なる医師人材の流れは、医療提供体制に影響を与えるだけでなく、どの領域で人材制約がボトルネックとなり、どこに運営改善や周辺サービスの事業機会が生じるのかをも左右する。
